太平洋戦争
 
 喪われた日本船舶の記録
 ・
 宮本三夫著
 
  序   文
 
 財団法人日本殉職船員顕彰会   会長 相浦紀一郎
 ・
  先の大戦で我が国は物量の点で米国に敗れたといわれていますが、前線への補給輸送作戦及び南方から本土向けの原材料や燃料の輸送作戦でも米国に負けたことは確かです。この補給輸送の担い手であった日本商船隊及び前線での接続輸送や監視活動に徴傭された多数の漁船・機帆船等の被害は、当会の調査によれば船舶は約 7,000隻、戦没船員は60,609名に達しています。
  戦時における被害の全体像を把握するための基礎資料を収集することは、それらが極秘扱いで所在が限定されていたこと、空爆による焼失及び終戦時における焼却処分等もあり、多くの原簿が散逸してしまいましたので、大変困難な作業になりますが、100総トン以上の大型汽船に関しては、戦時の海運統制機関であった船舶運営会の資料及び大手船会社が編纂した社史・船史等に基づいた数種の資料が公刊されています。また、輸送船団については情報蒐集に努力した個人により、大部分の記録が発刊されています。漁船・機帆船等については戦後60年近くを経た2004年に至り、海軍の徴傭船舶原簿の記載内容をまとめた資料が民間研究団体から発表されましたので、海軍徴傭船に関する限り、ある程度の小型船情報を入手できることになりました。

しかし、陸軍の徴傭船舶原簿が現存しないことが確認されていますので、今後これ以上の被害に関する資料を入手することは残念ながら期待できない状況にあります。よって今回本書が、全ての既刊資料を参考にして、被害船舶及び人命について総まとめを行ったことは時宜を得たものということができるでしょう。

  本書は海上補給戦に何故敗れたかを先ず検討した後、既発表の諸資料の人的・物的被害情報やデータをパソコンに入力して作成した、いわゆるデータベースを利用して種々の切り口で分析を行い、それらの結果を三次元グラフで表現し視覚的な理解を容易にしています。さらに、添付資料の各種一覧表は戦没船員遺族、戦史・海運史研究者及び海運、漁業等の関係者に対し価値ある情報を提供するものと信じております。

本書は著者による永年の努力の集大成でありますので、広く読まれ、かっ利用されることを願ってやみません。

 ・
 著者のことば
 ・
  本書は、 私が殉職船員への鎮魂の念を込めて書いたものである が、以下の多面的機能を備えている。第ーに、太平洋戦争の敗因を補給作戦面から解明した戦史としての機能である。第二は、 徴傭船原簿で確認された喪失船舶 3,605 隻(約905万総トン)について、沈没位置・殉職船員等の数を含む被害の概要、並びに 1,221 の輸送船団の出発港・到着港、投入・被害船腹量及び護衛艦数等の情報を、それぞれ一覧表にまとめ後世に伝えようとした記録(デ ータベース)としての役割である。第三は、これら一覧表のデータを、設定した類別に基づき多角的に量的分析を行っているので、船舶及び輸送船団の被害状況を客観的に解明した学術書としての使命である。本書が将来に亘り広く利用されることを願っている。
 

 目 次

  T、 海上補給作戦破綻の背景と戦争継続能力への影響
           1、海上補給作戦破綻の背景
      2、商船隊喪失が戦争継続能力に及ぼした影響

  U、 商船隊及び船員等の被害
            1、被害船舶を中心とした分析
      2、運航主体(徴傭別)を中心とした分析
      3、船員・隊員・便乗者の海上犠牲者の分析

    V、 輸送船団の展開と被害
      1、船団の分類、船腹量及び被害等の総計
      2、一般船団投入船腹量の半期別推移
      3、出発港別の船団分析
      4、到着港別の船団分析
      5、航路別の船団 分析
      6、主要1O往復航路別の分析
      7、主要基地間航路の分析
      8、作戦参加船団の概要と被害状況
      9、護衛船団の運航効率
     10、船舶別船団への参加歴

  W、 被害分析結果の総括
      1、分析のための類別
      2、被害船舶の分析結果
      3、被害人命の分布
      4、一般船団の被害船舶
      5、一般船団の被害人命

  X、 現代への教訓
      1、海上自衛隊任務への教訓
      2、企業経営及び商業口ジスティックスへの教訓

  添付資料

   資料 l 戦時被害船舶一覧
   資料 2 一般船団航路別投入船腹量
   資料 3 一般船団出発港別投入船腹量
   資料 4 一般船団到着港別投入船腹量
   資料 5 一般船団一覧
   資料 6 作戦参加船団一覧
   資料 7 戦時被害船舶船団参加記録(船舶が特定できる分)
   資料 7 付表戦時被害船舶船団参加記録(同名船舶の特定ができない分)

 ・
 
 ・
  靖国神社奉納 240 号油絵  「ヒ八六船団帰らず
 ・
  この油絵は、大東亜戦争に於ける海上輸送戦の実状を伝えるため、昭和61年10月13日、財団法人日本殉職船員顕彰会と海防艦顕彰会より、靖国神社に奉納されました。
 佐藤幹児画伯の作で、240号(横 409cm×縦 152cm)の大作です。
 
 昭和20年1月12日、印度支那半島東岸に於いて、「ヒ八六船団」(タンカー 4隻、貨物船 6隻 ) 、護衛艦(第百一戦隊一一「香椎」、海防艦 5隻) は、南方の石油、重要物資を満載し、帰国途次、米国主力機動部隊艦載機の反復攻撃を受け、終日に及ぶ防戦も空しく、海防艦 3隻を残し、全滅しました。この絵は、その情景を画いたものです。

 南支那海に侵入したこの機動部隊は、更に「第 一海防隊護衛補給船団」「サタ○五船団」「ヒ八七船団」等を攻撃し、我が国は合計艦艇 11 、船舶 48隻の大損害を受けました。    その後も、決死的な南方輸送が行われましたが、殆ど成功せず、南方との重要輸送路を断たれた我が国は、石油、資源が枯渇し、国力を失いました。