吾等が1号 34期生徒の卒業
 
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天皇陛下の御名代 東久邇宮盛厚王殿下ご到着 
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成績優秀生徒への恩賜の短剣授与 
 
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卒業式を終え校門を出る34機生徒と見送る後輩達 
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 34期生徒との別れ 帽振れ!
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 卒業生を囲み祝賀・惜別の宴
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 34期卒業式に際しての海軍報道班員の記事  
昭和19年7月号 戦線文庫より
海軍経理学校卒業式
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 決戦の海へ征く若桜
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 画と文; 海軍報道班員  近藤日出造 
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 (使用漢字は旧漢字を現代漢字に置換え仮名使いはそのままとしました)
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  時はまだ肌寒い三月の末、場所は築地のやっちゃ場近く、クリーム色の校舎の真中に燦として輝く御紋章、へんぽんと輝く軍艦旗の下、縮れつ毛に無理矢理櫛を入れ、斑らヒゲに剃刀をあてた私が、前庭にしつらへた受付に恭々しく名刺を差出して居た。
 肩に肩章、胸に勲章の閣下や佐官殿などが鮮やかな白手袋で挙手の礼をしながら相踵いで正面玄関に消えて行く。
 消えた私が落つく先は二階の奏任官控室。お茶と煙草と赫顔と禿頭と軍服とモーニングと話し声と笑声の中で、私はキョトンととりすましてゐた。
 東久邇宮盛厚王殿下がもう一ときするとおいでになるといふ。
 宮様の御前で卒業式が厳粛に挙行されるといふ。はっきりした階級とか規律とかいふもののない、アッパッパアみたいな締りのない日常を送って居る画描きにとって宮様のおん前の厳粛なる挙式への参列といふことはまことに前代未聞のことである。
 宮様の迎えの時が来た。奏任官及び同待遇者は玄関の右側に整列するのだといふ。副官の先導で室の人々はガヤガーヤと廊下へ出た。向ふの室からベタ金の閣下勅任官が「お偉い方がかうもいるものか」と思はれる程ゾロゾロと出て来られて、階段の上でわれわれと合流し、肩々相靡して階段を下りる。所々に兵曹さんや水兵さんが立って居て、ぜんまい仕掛けの樣に挙手の礼を続けてゐる。
 私は、少将閣下の服地の匂いを嗅ぎ、中将閣下の耳の穴の毛を珍しく眺め、大佐殿の呼吸を首筋のあたりに感じながら宮様の御着をおまち申上げた。
 栄ある卒業生達は、紺サージのズボンの折目も正しく、衿の金、白手袋もくっきりと、前庭の右側に翼の樣に整列して居る。みんな若さと鍛錬を感じさせる溌剌たる青年ばかりである。
 氣を付け〜ツ の号令がかかった。ザザツと靴を引く音がして総ての人々が不動の姿勢をとった。りうりょうたるラッパの音。颯ツと何百の白手袋が上がって一同挙手の礼。その中をジリジリと砂を噛んで宮様の御車が御到着。
 講堂には卒業生と来賓と父兄と一ぱいの人がつまって居た。帽子を取った卒業生の坊主頭は、みんな青くてこころもちとんがってゐる。
 あゝこの青くてとんがったリンゴの如き頭の中に、無敵海軍の経済面を切り盛りする知恵才覚が入ってゐるのか。
 坊主頭と坊主頭の間から宮様の着御遊ばさるべき一段高い御席が見える。
 やがて、氣を付け、につゞいて最敬礼。そしてその下げた上体を抑へるように荘重な君が代の尾と、なおれ、の号令がダブって、恭しく上げた眼の前面に、満堂の人々は御氣高く、そして御逞しき宮様の尊い御姿を拝したのである。何とか何とか総代何のなにがしと呼ばれて、宮様のおん前に出る優等生の靴音はカッカッと静寂の中に頼母しく響き、その胸の歓喜の鼓動を聞くやうである。いただいた証書を右手に高々とさし上げて席に戻る樣には敵の首級をまんまと討ち取った若武者の面影がある。
 
  総代が代る代る御前に出る度に、高い御席に在す宮様はきっとその生徒を御見つめになり、御返礼を賜った。
 何たる光栄、何たる感激、私はふと一人息子をこの学校へ入れてやろうかな、なぞと考えた。後の席の父兄の感懐はいかばかりであろう。宮様を御見送り申上げ、さて茶菓の立食接待といふことになる。教官と、卒業生と、父兄と、来賓とを、ちゃんぽんに交互に組合せた席の取り方の巧みさ、親しさ。
 一同冷酒で乾盃すると、もはや気取りも気兼ねも追つかなくなりかくて皆々打解けて、少尉候補生となり少尉となり、やがて決戦の海へ出で立つ卒業生を鼓舞して、ガヤガヤと会場が春めいて来た。
  
  ほんのりと、文字通りの若桜となったる私の前の卒業生が、もう一人の若桜にお母さんを紹介してゐる。お母さんは息子と息子の戦友の顔を見上げ、ニコニコと涙ぐんでゐる。 
 かなり席が弾み、少々タガがゆるんだ頃、それを締めるように紺野校長の訓話があり、つづいて吉田善吾大将の御挨拶があった。候補生よ、主計科も亦立派な戦闘員であるといふ誇りを持て、といふ意味の言葉であった。戦闘の総ては経理に通じ、経理は総ての戦勝の鍵を握るものである、されば決戦下に主計科士官たるものゝ任務も亦重い、といふ意味の言葉であった。
 
 
 
                                           
 

                             

 BGM 誉れの曲 吹奏楽 海上自衛隊横須賀音楽隊