乗 馬 訓 練
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 陸軍経理学校での乗馬訓練   藤本 欣吾
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   入校すると、それぞれ得意技で、“係生徒“を任命される。私は運動オンチだものだから申し出るものがない。一番最後の方に乗馬係というのが目にとまった。まさか海軍に乗馬があるはずはないと思って、乗馬係に○をつけて提出し た。

ところが、乗馬訓練があったのである。記憶がやや定かではないが、春、新 緑の頃だったと思う。小平にある陸軍経理学校へ行った。乗馬係は馬具の引き渡しの員数を合わせれば役目は終わりという程度のものであった。

 一人に馬一頭が渡される。鬣や尻尾に赤い布がつけられた馬がいた。鬣の赤 は噛む癖のある馬、尻尾の赤は蹴る癖のある馬ということであった。馬は利口 だから乗り手の心理や技術をすぐ読みとってしまうから気をつけろとも言われ た。馬に乗る方法、手綱の捌き方、前進、停止、右向け、左向け等一通りのことを教わって馬上の人となった。馬はよく訓練されていると思われ、チヨット合図すると、前を進む馬のとおり行動してくれた。乗ったというより馬に乗せ て貰ったという方が実態に近かったかも知れない。 乗ってみてわかるが、馬の上は意外と高い。全然新しい視界が開ける。それ に動く生き物に跨るというのは何ともいえぬ優越感をくすぐるものである。
  垂水に移って翌年 3 月、こんどは姫路の騎兵連隊へ出かけた。二回目となる と、そこは鍛えぬかれた海軍生徒、のみ込みも早く、みんな堂々たる馬上の人 となっていた。
 今度は兵舎を出て、遠乘りということになった。但し二人に馬一頭。交替で乘る。馬上にある間は天国であるが、歩く番になるとたいへんである。馬が歩いている間はよいが、走り始めると追っかけなければならない。馬は速いのである。馬に遅れないように汗ダクになって馬の尻を追っかけた記憶が鮮明に残っている。

乗馬訓練は生徒生活の中でも、懐かしい思い出の一駒であった。

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