甲 板 掃 除
 
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 山田  泉 画
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             甲板掃除「ギヤよろし!」    高坂 信一
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  「スマートで目先が利いて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」がモットーの海軍は、ともかく綺麗好き、掃除好きである。
 朝食前と就寝前、最低1日2回の掃除が日課になっていた。毎日の掃除のほかに、行事予定には、中掃除、大掃除が組み込まれていた。
 日常の身の回りの整理整頓はきびしかった。ベットの上の毛布は、綺麗に折り目をそろえて重ねておかなければならなかったし、チェストの中の衣類は、定規で測ったようにきちんと畳んでおかなければならなかった。床にはいつもごみ一つ落ちていないように心がけていた。
 生徒館内の床掃除はもちろん、窓のガラス拭きも、金物磨きも、校庭の掃き掃除さえも、すべて「甲板掃除」と称していた。これは、たとえ陸の上で生活していても、常に海上にありの心構えを訓えたものだ。
 さて、本来の甲板掃除は、船の露天甲板に水を流し、ブラッシでこすって洗うわけだが、この甲板掃除は、体力的にたいへんきつかった。横一列に並び、腰をぐんと落とし、片足を前方に一杯に伸ばし、両手に体重をかけてブラッシで甲板をごしごしと磨いていく。「前へ」の号令で、交互に片足を前に出して前進していく。わざわざこんな無理なきつい姿勢で掃除するなんて、合理性を重んじる海軍らしからぬと思っていたが、船の上の生活では足腰が弱くなるので、それを鍛えるためだったようだ。
 生徒館には船のような甲板は無いが、同じ姿勢、同じやり方で、リノリューム張りの床を、ワックスをかけてソーフ(掃布)で磨いていた。
 掃除が終わると、当直の1号生徒に「ギヤよろし」と大きな声で報告する。「ギヤよろし」とは、「掃除終わりました。点検をお願いします」との意味である。
 海軍では、掃除用具を「ギヤ」、雑巾を「マッチ」と呼んでいた。その他、日常用語に英語がふんだんに使われていた。敵性語ということで英語禁止、陸士の採用試験では試験科目から英語を除くという世の中で、非常に印象深いことだった。
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