教室で授業を受ける生徒
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               座 学 (教室での講義)    門脇倹治
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  36期生徒に対する特別(訓練)日課終了の翌日、昭和18年12月15日から教室での講義(座學)が始まった。
 普通学(一般教養科目)の講義としては、英数国漢等から始まったが、中学時代に学んだところから抜け出し、一段上の次元の違う教科のように感じられた。旧制高校文科生レベルの教科内容というべきか。例えば英語では教官ごとに違う原書を読まされ、数学では微積分や二項定理などを教わった。
 基本学としては、法律学、経済学、会計学、栄養食品学等がこれに該当するであろう。講師はいづれもそれぞれの学術分野において、我が国当時の最高水準に位する方々であったが、生徒は皆10歳代後半の年齢、現実に社会人としての生活体験のない者にとって、法律学、経済学等の意味するところをどの程度理解できたかは疑問である。その各分野の学術領域に属する具体的科目の講義を学ぶに先立って、牧野英一先生から「法学通論」を学んだことは正に適切な教育コースだったと云えるであろう。
 牧野先生の講義はくだけた話しぶりで、判り易く面白かった。そのため後々まで記憶に残ることが多かった。刑法学者ながら市民社会の社会経済の基本となる民法に精通された方の講義だけに、後に続く法律・経済の諸科目導入のよき先達となった。
 最近、垣水孝一君によって復刻された当時の先生のテキスト「法学通論」を一読したが、その内容は十分に難しく高水準のものであった。一言にて評すれば、あの時代の日本の国家、社会の本質を透徹した眼で分析し、これを体系化した大著と云えるであろう。
 主計科にとって大事な栄養食品学の講座では、納豆作りが教材とされ松尾安政君等が壇上で製作を実演した様子が今も目に浮ぶ。
 軍事学では、まず軍制、それから基本兵学が思い出される。後者については講義内容が浅く広く多岐に亘っており、今にして思えば、将来の海上勤務者の基本的な素養として航海術・運用術についてもっと突っ込んで徹底した講義内容が欲しかった。そのためには基本兵学の中やその外の関連項目の教科には思い切って省略乃至は簡素化されてよかったと思われるものがある。
 我々コレス三校の受験に際しての生徒募集要綱(広報パンフレット)の中に、経校の教科内容として「食卓礼法」というのがあった。我々36期生は正式卒業を経験しておらず、卒業直前に予定されたであろう食卓礼法の講義は聞けなかった。
 海外勤務で公的宴席に連ることが多く、そのつど見よう見まねで適当に食卓マナーを糊塗してきた者にとって、昔の海軍士官の食卓礼法の講義内容はどんなものだったろうかと興味が湧く。話題豊富な岡田貞寛先輩の『海軍思い出すまま』にもこのことについての記述がなく、手紙で「サロン ドウ 36」の場で先輩に一席講義を伺いたいと書いたが、先日亡くなられ実現せず残念だった。
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 BGM 課業始め 海軍軍楽隊OB